夕凪亭別館

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1972年8月

Lost Days

1972年8月30日。火曜日。曇り。

 夏休暇を終えて,久し振りに広島に戻ってきた。二時に着いたのは,便がよかったからだ。やはり,自分の部屋に戻ると落ちつく。それにこの部屋は僕の仕事場として余りに完璧にできているので尚更である。

 盆過ぎてから涼しくなったので,広島に戻りたかったのだが,弟がいるので仕方なしに家に留まっていた。去年は広島でバイトをしたものだから,今年の夏は大学生になっての始めての家での夏休みだった。今反省してみるとあまり勉強しなかったように思う。読書も12冊ほどだから何も読んでいないようなものだ。

 アルルの女を聞きながら,煙草を吸っている。

 

1972年8月31日。水曜日。雨後晴れ。

 朝から雨。昼頃やんだ。社会学のレポートを書いている。なかなか進まない。アルルの女をテープで流す。午後の日が簾を通して入ってくる。濃いブルーと白の合成樹脂製だから,白い部分が光をほとんど通す。そんなに暑い日でもないので,その入ってくる午後の日ざしが,なぜか心を暖かくさせる。扇風機は静かに回っている。煙草をつける。のどかで,しみじみとした幸福感が部屋一杯に漲っている。ひょっとしたら,こんなひとときが僕にとっては幸福なときであるかもしれない。人付き合いの煩雑さともまた無縁だ。

 

 

午後の三時 雨後の陽は弱い しかし,明るい

静かな街だ 朗らかな光だ

Lost Days